近年、日本の企業では地球温暖化対策によるクールビズやウォームビズが定着し、5月~10月(1年の半分)がクールビズといった企業も多く、その推進から快適性を求め、カジュアルなジャケット&スラックスやポロシャツスタイルがビジネスマンに浸透しましたよね。

一方では、正統派スーツスタイルとしてオーダーメイドで自分の体型にフィットした、大人の品格をアピールするスタイルが増え始めています。

ここでは、新たなスーツスタイルとして、夏の暑い時期にも快適に着用できるポリエステル100%のジャージ(ニット/編み地)生地をビジネス向けに仕立てた「ニットスーツ」を紹介しています。

ニットスーツといってもさまざまありますが、ここで紹介するニットスーツはカジュアルなイメージのスーツではなく、従来型のウール(羊毛)をベースにしたビジネススーツと見た目は同じで、実はポリエステル100%のジャージ(ニット/編み地)生地で作られている商品です。

このビジネス向けニットスーツのポイントは、スポーツウエアで使用されている機能性(通気性、吸水速乾性、伸縮性、耐久性など)を活かした「生地」とビジネスやフォーマルスーツ(礼服)として支障なく着用できる「縫製仕様」の2つです。

それでは、ビジネス向けニットスーツの「生地」と「縫製仕様」について、見てみましょう!

生地(夏向けのニット/編み地)

ビジネス向けニットスーツは、主に春夏向けの商品が多く、これはポリエステル100%のジャージ(ニット/編み地)生地の特徴を活かした結果です。ジャージ(ニット/編み地)生地は織り地と違い、糸をループ(輪)状にして面を形成していますが、織り地は基本的に経(たて)糸と緯(よこ)糸を交差させて組織を形成していますので生地の目風による通気量に大きな違いがあります。

ジャージ(ニット/編み地)生地は、織り地と比べて通気量が2から4倍程の差があるといわれています(生地の重量が同等品の場合)。

ここで紹介する夏向けのニットスーツでは、特に「ジャージ(ニット/編み地)生地」が重要です。ビジネスやフォーマルスーツ(礼服)に向けた織り地のようなハリ・コシのある質感と耐久性、日本のような湿度の高い気候にあった通気性と吸水速乾性などの機能性が求められますね。

ポリエステル100%の原料ですが、天然素材のような光沢を意識しポリエステルにある特有のチープな光沢を抑え、お手軽に家庭洗濯が可能な防シワ性に優れた「生地」になっています。ポリエステル100%原料は、害虫の被害も少なくイージーケア性に優れています。

この新感覚なジャージ(ニット/編み地)生地をさらに詳しく「糸種」「編み方」「染色・整理」に分けて解説していますので参考にしてください。

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糸種(※ポリエステル100%原料)

ここでは、ポリエステル(100%)原料を糸種に設定し、強度とサラサラしたようなドライ感、ポリエステルにある特有の光沢を抑えるため、強い撚(よ)りを糸に加えています(撚り=ねじり合わせ)。この糸を一般的に「強撚糸(きょうねんし)」と呼んでいます(画像の左が通常の糸、右が強撚糸)。

糸の太さ(細さ)では、84~110デシテックスに設定。スーツで使用する糸種としては、細めですが夏向けに生地を薄く、軽く仕上げるためにはちょうどよい太さ(細さ)になります。目付(めつけ)は、195グラム/平方メートル(生地幅150センチメートル)で、夏のニットスーツとしては理想です。

ジャージ(ニット/編み地)生地は、織り地と同等レベルの強度にしようとすると糸量が増えるため、重くなります。

  • 目付(めつけ)とは、生地の単位面積あたりの重さのことで、一般的な夏向けスーツの織り地は、135グラム/平方メートル前後(生地幅150センチメートル)です。
  • デシテックスとは、糸を10,000メートルに伸ばした時の重さ(グラム)が基準で、10,000メートルで1グラムの糸であれば1デシテックスになります。一般的によく使用される165デシテックスの糸に比べると今回使用の糸(84~110デシテックス)は少し細めと言うことになりますね。

糸の撚(よ)り回数については、800~1,200回転の強撚。糸を強撚にすることで、生地を夏向けに薄く、丈夫でサラサラとした感触に仕上げることができますね。ポリエステルにある特有のチープな光沢も強撚糸にすることで少し抑えられます。

  • 撚糸(ねんし)とは、糸を1本または2本以上揃えて撚(よ)りをかけること。通常の撚糸を400~500回転とすると、今回の使用している強撚糸は約2倍の撚糸回数になります。

糸種をポリエステル100%の84~110デシテックスにし、強い撚りを加えて夏向けのニットスーツに最適な「糸」が完成すれば、この「糸」を使ってジャージ(ニット/編み地)生地に仕上げる訳ですが、その前に「編み方」を説明します。織り地のようなハリ・コシのある質感と耐久性、通気性や伸縮性などニットスーツに求められる機能性を考え、総合的に丸編みに設定。

編み方

編み方には「手編み」「経(たて)編み」「緯(よこ)編み」とありますが、今回のニットスーツは、緯(よこ)編みの種類で「丸編み」に設定しています(画像は丸編み機です)。

  • 丸編みとは
    • 円形を描きながら筒状に作る編み方。
    • べら針(編み機の針でカギのフックがあり開閉する)で編む。
    • 丸編み機には、シングルニードル(針が一列)やダブルニードル(針が二列)、両頭針を使う種類がある。ここではダブルニードルが主流。
    • 一般的にジャージ(ニット/編み地)生地の中では伸縮性に優れ、ソフトな風合いを作る。

また、編み機にはそれぞれ「ゲージ」といって、設定する糸(針)密度によって異なります。ここで使用しているジャージ(ニット/編み地)生地は、糸の太さ(細さ)から28~32ゲージに設定。織り地のようなハリ・コシのある質感と耐久性のあるビジネスやフォーマルスーツ(礼服)に対応できるジャージ(ニット/編み地)生地に仕上げています。

  • ゲージとは、編み機の針密度を表す単位。1インチ(2.54センチメートル)間に針が何本あるかを表しています。例えば、28ゲージであれば、1インチの間に28本の針があることになりますね。

ここまでが、生地の原形となる「生機(きばた)」が仕上るまでのポイントです。(※生機とは、染め加工前の布生地のこと)。

次は、生機を染め、生地の最終仕上げセットまでを見てみましょう!

染色・整理

生機(きばた)が仕上がり、いよいよ生地の最終段階。ここでのポイントは、生地のセット(熱を加えて安定させること)です。生機を染め上げた状態では、生地の幅が100センチメートル前後ですが、それを160センチメートル前後まで引っ張り、熱(180℃前後の温度)セットをします(画像は生地セット機)。

ジャージ(ニット/編み地)生地は、熱を加えセットすることで形状が記憶され、サイズが安定し、カサカサする表面の凹凸が無くなり、滑らかな風合いをキープすることが可能になります。

  • 染色では
    • 数種類の糸を染め分け、天然素材のように仕上げる。
    • 物性(日焼けや色落ちなど)を管理。
  • 整理では
    • 180℃の高熱でセット(生地が安定する)。
    • ウェール(経に連結した編み目)とコース(緯幅方向に連結した編み目)で品質を管理し、柄や風合いを安定させる。
    • 風合いは、織り地にようなハリ・コシに調整する。

ここまでが、糸からジャージ(ニット/編み地)生地に仕上がるまでのポイントです。ポリエステル原料の特徴(機能性など)を活かし、糸種や編み方、染色・整理加工など各セクションの工夫や努力によって、今までにはなかった新感覚のジャージ(ニット/編み地)生地が完成しました。

それでは、このポリエステル100%のジャージ(ニット/編み地)生地を使用して、夏に最適なニットスーツに仕上るまでの縫製仕様について見てみましょう!

縫製仕様(ニットスーツ)

ここでは、従来型のウール混スーツでは殆んど使わない付属(表生地以外の洋服をつくる資材)と縫製仕様ですが、ポリエステルのニットスーツには重要な内容です。

  • 縫い糸
    • ジャージ(ニット/編み地)生地用の縫い糸(レジロン糸など)を使用。ジャージ(ニット/編み地)生地は伸縮性があり、通常のスパン糸では糸に伸縮性がないため、縫い目が切れてしまうことがある。
  • 縫製針(ミシン針)
    • ウール混などの織り地では一般的に先端の尖(とが)った針を使いますが、ジャージ(ニット/編み地)生地では地糸を切って穴を開けてしまい、そこから裂けることがあります。先端の少し丸めてある「ボールポイント針」を使用する。
  • 付属(表生地以外の洋服をつくる資材のこと)
    • 強撚糸などでハリ・コシのあるポリエステルのジャージ(ニット/編み地)生地には、薄くて軽いウォッシャブルに対応が可能な肩パットや胸増芯(むねまししん)を使用し、上衣(うわぎ)を軽く、家庭で洗濯が可能なようにする!
  • 裏仕様(上衣)
    • 裏地は極力少ない「背抜き仕様」にして通気性をアップさせる。
    • 家庭洗濯に対応が可能な縫製(水圧に負けない仕様)。
    • 背中心には、補強テープ(ニット/編み地用)を使用し、ハードな動きに対応。
  • 組下(スラックス)
    • ヒップ部分は、強い力が加わるために補強テープ(ニット/編み地用)を使用。
    • 家庭洗濯に対応が可能な付属と水圧を考慮した縫製。

ここでは、ジャージ(ニット/編み地)生地の機能性を活かすために、必要な縫製仕様について説明しました。従来型のウール混スーツとの違いは、生地以外では「糸」と「針」です。

縫製工場にとって、糸と針は最も重要であり、その種類が増えれば、間違うリスクや生産性などに影響を及ぼします。縫い糸や針は、織り地だけでも糸の太さ(細さ)や色目、針の太さ(細さ)など数種類を用意しなければなりません。ジャージ(ニット/編み地)生地を加えれば2倍になります。

また、ミシンのテンション(針の強弱やスピード)もジャージ(ニット/編み地)生地は、先端の丸いボールポイント針を使用するため、強めでスローにしなければなりません(生地をキズつけず針を貫通させる)。ミシンのテンションには慣れが必要で、頻繁に変えると品質や生産性が悪化する原因になります。現在の課題とも言えます。

ニットスーツの認知度が上がり、1社当たり年間10万着程度の需要があれば、海外の縫製工場内にニットスーツ専用の縫製システムがつくれ、糸や針の頻繁な交換よる間違いやミシンのテンションを調整するリスクが無くなり、現在の課題は解決できます。

夏に最適な機能性が多いポリエステルの「ニットスーツ」は、これからますます需要が増え、縫製工場の課題を一気に解決することでしょう!

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まとめ

夏に最適なポリエステル100%のビジネス向けニットスーツは「生地」「縫製仕様」の2つがポイントです!

生地

夏向けに開発された機能性に優れたジャージ(ニット/編み地)生地を使用、「糸種」「編み方」「染色・整理」の工程がポイントです。

  • 糸種
    • ポリエスル100%(原料)は、水分に強く、家庭洗濯が可能で虫被害が少ない。
    • 糸の太さ(細さ)を夏向けに設定(84~110デシテックスが最適)。
    • 強撚糸(撚糸回数を800~1,200回転)を使い、生地の強度アップとドライ感を作り、さらにポリエステルにある特有のチープな光沢を抑えている。
  •  編み方
    • 丸編みは、織り地に比べると「通気性」がよい。
    • 安定した伸縮性とソフトな風合いがある。
    • 織り地のような質感と耐久性(28~32ゲージに設定)。
    • 防シワ性がよい。
  •  染色・整理
    • 天然素材のような自然な色目。
    • 高熱(180℃)セットで生地を安定させ、柄や風合いを管理。

ポリエステル原料の特徴を活かしたジャージ(ニット/編み地)生地は、夏の最適な生地になります。

縫製仕様

縫製仕様では、夏向けに仕上げた「ジャージ(ニット/編み地)生地」を活かすための工夫です。

  • 縫い糸は、ジャージ(ニット/編み地)生地用(レジロン糸など)を使用。
  • 縫い針は、ボールポイント針を使用し、地糸を切らない。
  • 付属は、ウォッシャブル対応で薄くて軽い素材を使用。
  • 裏仕様(上衣)は「背抜き」にして軽く、通気性をアップさせる。
  • 組下(スラックス)は、ヒップ部分を補強し、付属はウォッシャブル対応。

従来型のウール混スーツとは全く違うポリエステル100%のビジネス向けニットスーツは、夏に最適な機能性を持った新感覚なスーツとして、今後はますます増えると思っています。

私も最初は「ニットでスーツ?」と多少の不安もありましたが、スポーツ素材をビジネスに取り入れた発想が面白く、夏はこれに限ると今では思っています。

正統派のスーツとは異なりますが、ポリエステル繊維の進化と長年の縫製技術が、現代に齎(もたら)せた賜物だと思っています。

機会があれば、是非お試しください!