近年、インターネット情報やメディアによって日本独自の礼服・喪服(もふく)文化の考え方が、欧米など海外からの影響もあって少しずつ変わり始めています。格式や世間体を意識した着用シーンが確実に少なくなっていますよね。
現在では、正礼服(モーニングコート・燕尾服)や準礼服(タキシード)といった形式で残っていますが、今後はますますブラックスーツといった略礼服に集中した形が増えて行くように感じます。
ここでは、進化したポリエステル100%のジャージ(ニット/編み地)生地をブラックスーツ(=略礼服)に活かし、多くの機能性を取り入れたメンズ向けの「ニット礼服」を紹介しています。
それでは、メンズ向け「ニット礼服」が大注目されている3つの理由「生地」「縫製仕様」「機能性」について、解説して行きましょう!
生地 (※ポリエステル100%)
ニット礼服で特に重要なジャージ(ニット/編み地)生地は、織り地のようなハリ・コシのある質感と耐久性に加えて、光沢を抑えた深みのある「真黒(まくろ)」が求められます。今までのメンズ向け礼服は、羊毛(ウール)を主原料とした生地が多く、ポリエステル原料では出せない光沢を抑えた深みのある黒さが特徴ですよね。
羊毛(ウール)原料には、ポリエステル原料のような独特のギラついた光沢がなく、染料は浸透しやすく濃く染まる性質があり、今でもメンズ向けの礼服では主流です。
新感覚のジャージ(ニット/編み地)生地は、ポリエステル100%の原料ながら光沢を抑えた糸の開発と染色加工技術の進化によって、羊毛(ウール)に引けを取らない「真黒(まくろ)」に仕上がっています。お手軽に家庭洗濯が可能で防シワ性に優れ、保管時による害虫の被害や湿気で型崩れする心配がありません。
それでは、この新感覚なジャージ(ニット/編み地)生地のポイントとなる「生機(きばた)」と「染色・整理」について見てみましょう!(※生機とは、染色加工前の布生地のこと)。
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生機(きばた)
糸種は、ポリエステル(100%)原料で新開発された光沢を抑えた84~110デシテックス(糸の太さ/細さ)を使用し、その糸に強い撚(よ)りを加えています(撚り=ねじり合わせ)。強い撚りを糸に加えることで強度が増し、ハリ・コシのある質感と耐久性のあるジャージ(ニット/編み地)生地に仕上がります(※ここでの強い撚りとは800~1200回をいい、一般的には500回前後が撚り回数として多く利用されています)。
- デシテックスとは、糸を10,000メートルに伸ばした時の重さ(グラム)が基準で、10,000メートルで1グラムの糸であれば1デシテックスになります。一般的によく使用される165デシテックスの糸に比べると今回使用の糸(84~110デシテックス)は少し細めと言うことになりますね。
強い撚糸(ねんし)を行いメンズ向けのニット礼服用に完成した糸は、織り地のようなハリ・コシのある質感と耐久性、伸縮(ストレッチ)性などの利便性を考慮し、丸編みで生地を仕上げます。
- 丸編みとは
- 円形を描きながら筒状に作る編み方。
- べら針(編み機の針でカギのフックがあり開閉する)で編む。
- 丸編み機には、シングルニードル(針が一列)やダブルニードル(針が二列)、両頭針を使う種類がある。ここではダブルニードルが主流。
- 一般的にジャージ(ニット/編み地)生地の中では伸縮(ストレッチ)性に優れ、ソフトな風合いを作る。
また、丸編み機には「ゲージ」といって、設定する生地の糸(針)密度によって異なります。ここでは糸の太さ(細さ)から28~32ゲージに設定。織り地のようなハリ・コシのある質感と耐久性のあるニット礼服に最適なジャージ(ニット/編み地)生地に仕上がります。
- ゲージとは、編み機の針密度を表す単位。1インチ(2.54センチメートル)間に針が何本あるかを表しています。例えば、28ゲージであれば、1インチの間に28本の針があることになります。
ここまでが、ジャージ(ニット/編み地)生地の原形となる「生機(きばた)」に仕上げるまでのポイントです。次は、生機を特殊な技術で深みのある「真黒(まくろ)」に染め、生地の最終仕上げセットまでを見てみましょう!
染色・整理
ここでは、生機(きばた)を深みのある「真黒(まくろ)」に染め上げ、熱を加えて寸法や風合いを安定させて生地に仕上げる段階です。生機を特殊な技術で「真黒(まくろ)」に染上げた状態では、幅が100センチメートル前後ですが、それを160センチメートル前後まで引っ張り、熱(180℃前後の温度)セットをして生地を完成させます。
ジャージ(ニット/編み地)生地は、熱を加えセットすることで形状が記憶され、寸法が安定しカサカサする表面の凹凸が無くなり、滑らかな風合いをキープできます。
- 染色では
- 「真黒(まくろ)」用の染料を使用し、特殊加工で生機にダメージを加え、染料をより浸透させる。
- 樹脂などの溶剤で物性(変色の抑制や風合い)を安定させる。
- 整理では
- 180℃の高熱でセット(寸法や風合いが安定する)。
- ウェール(タテに連結した編み目)とコース(ヨコ幅方向に連結した編み目)で品質を管理し、微妙な目風(柄)を一定させる。
- 織り地のようなハリ・コシに調整する。
ここまでが、糸からジャージ(ニット/編み地)生地に仕上がるまでのポイントです。ポリエステル(100%)原料の特徴を活かし、糸の開発や染色加工技術の向上などによって、今までにはなかった新感覚のジャージ(ニット/編み地)生地が完成!
このポリエステル100%のジャージ(ニット/編み地)生地を使用して、オールシーズンに対応が可能な「ニット礼服」に仕上げるための縫製仕様について、解説して行きます。
縫製仕様(メンズ)
今までのメンズ向けの礼服(ウールなど)では、殆んど使わない「縫い糸」や「縫製針」、一方裁断などの「縫製仕様」は、ポリエステル100%のニット礼服では最も重要な要素です。
- 縫い糸
- ジャージ(ニット/編み地)生地専用の縫い糸(レジロン糸など)を使用。ニット(編み地)は伸縮性があり、通常のスパン糸(織り地で使用)では伸縮性がないため、縫い目が切れてしまうことがあります。
- 縫製針
- 織り地(ウールなど)では一般的に先端の尖(とが)った針を使いますが、ジャージ(ニット/編み地)生地では地糸を切って穴を開けてしまい、そこから裂けることがあるため、先端の少し丸めてある「ボールポイント針」を使用。
- 縫製仕様
- ジャージ(ニット/編み地)生地は通気性がよいため、オールシーズン(通年用)として着用が可能。
- 家庭洗濯に対応が可能な縫製(水圧に負けない仕様)にする。
- 力の加わる上衣(ジャケット)の背中心や組下(スラックス)のヒップ部分には「補強テープ(ジャージ・ニット/編み地用)」を使用し、ハードな動きに対応。
- 織り地と違ってジャージ(ニット/編み地)生地には、ループ状の編み目が表面にあり、角度によって見え方が変わるため「一方裁断」で縫製する。
ここでは、ニット(編み地)の特性を活かすために必要な、縫製仕様のポイントについて解説しました。今までのメンズ向け礼服(ウールなど)との違いは、生地だけでは無く「縫い糸」や「縫製針」といった目に見えにくい部分も大きなポイントです。
最後に注目されているもう一つの理由「機能性」について解説しましょう。
機能性(礼服)
ここからは、新感覚のポリエステル100%のニット礼服が今までのメンズ向け礼服(ウールなど)と何が大きく違うのか?その違いについて解説します。
今までのメンズ向け礼服(ウールなど)は、確かに色目は深みのある「真黒(まくろ)」ですが、重く、伸縮(ストレッチ)性が少なく動き難いといった声をよく聞きます。
また、移動中のシワや天然素材(ウール)は特に湿気に弱く、害虫の被害が気になり適度(年1回)なクリーニングなどのアフターケアをおろそかにすると必要な時に着用できないことに成りますよね。
そんな難点を改善したポリエステル100%の「ニット礼服」は、新感覚のブラックスーツ(=略礼服)として冠婚葬祭(お葬式、お悔やみの席、結婚式、入学式、お祝いの席など)の全てに着用が可能です。
- 機能性
- 今までの礼服(ウールなど)に引けを取らない「真黒(まくろ)」が実現。
- オールシーズン(通年用)として着用が可能な通気性。
- 伸縮性(ストレッチ)のあるニット(編み地)。
- 家庭洗濯が可能なポリエステル100%!
- 速乾性に優れたポリエステル100%のニット(編み地)。
- 防シワ性に優れている高密度なニット(編み地)。
- アフターケア性(害虫の被害がない、湿気に強く型崩れがない)。
- ジャージ(ニット/編み地)生地の特有な軽さと柔らかさ!
- ポリエステル100%にあるチープな光沢を抑えた上品さ。
- 欠点は、タバコなどの火に弱い。
ポリエステル100%のジャージ(ニット/編み地)生地には見えない、羊毛(ウール)織り地のようなハリ・コシのある質感と耐久性が実現し、今までの礼服に引けを取らない色目「真黒(まくろ)」と多くの機能性から正に新感覚の「ブラックスーツ(=略礼服)」と言えますよね!
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まとめ
新感覚なポリエステル100%のニット礼服が、メンズで注目されている3つの理由は「生地」「縫製仕様」「機能性」です。
生地
織り地のようなハリ・コシのある質感と耐久性に加えて、光沢を抑えた深みのある「真黒」。この新感覚なジャージ(ニット/編み地)生地のポイントは「生機(きばた)」と「染色・整理」です。
- 生機(きばた)
- 糸種は、ポリエステル100%の光沢を抑えた特殊糸(84~110デシテックス)を使用し、糸に強い撚り(800~1200回)を加えて強度をアップ。
- 伸縮(ストレッチ)性とソフトな風合いを考え「丸編み」で製編。
- 織り地のような質感と耐久性を考え「28~32ゲージ」に設定。
- 染色・整理
- 生機にダメージを与える特殊加工で「真黒(まくろ)」を実現。
- 高熱(180℃)で寸法や風合いをセットし、ハリ・コシのある生地が完成。
ポリエステル(100%)原料で、新開発された糸と染色加工技術から実現した「真黒(まくろ)」のジャージ(ニット/編み地)生地は、新感覚な「ニット礼服」には最適な生地です。
縫製仕様(メンズ)
ここでのポイントは「縫い糸」「縫い針」「縫製仕様」の3つです!
- 縫い糸は、ジャージ(ニット/編み地)生地専用の伸縮性のある糸(レジロン糸など)を使用。
- 縫い針は、ジャージ(ニット/編み地)生地専用の地糸を切らないように「ボールポイント針」を使用。
- 縫製仕様では、生地の編み目(方向)を合わせ「一方裁断」、家庭洗濯に対応が可能な補強と縫製を行う。
ジャージ(ニット/編み地)生地の場合は、織り地と違った特殊な「縫い糸」や「縫い針」があり「縫製仕様」なども異なりますが、今までのメンズ向け礼服(ウールなど)と見た目は全く変わりなく、機能性だけがアップしているイメージです。
私自身も実際にポリエステル100%の「ニット礼服」を着用していますが、今までにはない機能性と着用感のよさは、間違い無くこれから増えて行くと思います。
私は、4万円程でニット礼服を購入(紳士服専門店)しました。
礼服はいつ着用するか分からないところ(お悔やみなど)があり、保管をしていても湿気による型崩れやカビ、虫の被害など心配することが多々ありますが、ポリエステル100%のニット礼服に変えてからその心配がなくなりました。
また、礼服の上衣(ジャケット)は式場でほとんど脱ぐことがなく、常に着用しなければならない窮屈感があり、立ったり座ったりすることによるシワなども気になっていましたが、ニット礼服ではその心配もありません。
ポリエステル100%の欠点であるタバコなどの火を使うことがなければ、礼服として最適だと思います。これから礼服としてますます進化する「ニット礼服」は、今までにはないブラックスーツとして間違い無く定着して行くと考えています。
これから礼服(ブラックスーツ)の購入を考えられている方は、この機会に「ニット礼服」を是非お試しください!
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