アパレル業界の構造は、大きく3つの業種から成り立っています。3つの業種を業界では、川の流れに例えて「川上(かわかみ)」「川中(かわなか)」「川下(かわしも)」と呼び、それぞれを位置付けています。

ここでは、アパレル業界に於ける業種の構造分析を理解し、その上で「どのような業種に就きたいのか?」「どんな人生を目指すのか?」といったようなイメージで将来を見据えた就職・転職の参考にお役立て頂ければと考えています。

アパレル業界の構造を分析!3つの業種とは?

それでは、3つの業種「川上(かわかみ)」「川中(かわなか)」「川下(かわしも)」とは、どのようなものか?見てみましょう!

「川上(かわかみ)」とは

繊維の原材料(羊毛・綿・石油・パルプ)から糸(原糸)をつくり、生地に仕上げるまでの業種をいいます。糸(原糸)をつくる「原糸メーカー」と生地をつくる「生地メーカー」に分類されます。

原糸メーカーには、羊毛・綿・麻・絹といった天然素材を原材料にして糸に加工する「紡績」と、石油・パルプ(木材などの植物原料を機械的または科学的に処理してセルロースを取り出した状態のもの)といった原材料を人工で繊維にし、糸に加工する「化合繊維メーカー」に業種が分類されます。
主な企業:東レ㈱、帝人㈱、㈱クラレ、倉敷紡績㈱、東洋紡㈱など

生地メーカーには、原糸メーカー系列の企業や繊維・産元商社があり、近年では生地問屋がメーカーとなり、独自で生地を企画・開発するケースがあります。
主な企業:帝人フロンティア㈱、蝶理㈱、瀧定大阪㈱、モリリン㈱、㈱ヤギなど

「川中(かわなか)」とは

生地の選定とデザイン(型紙含む)作成、それをベースに縫製を行ない、製品に仕上げるまでの業種をいいます(通称:アパレルメーカー)。

生地には、大きく分けて織り地と編み地があり、織り地で縫製された製品は「布帛(ふはく)品」といい、編み地で縫製された製品を「ニット(ジャージー)品」といいます。

  • 織り地と編み地について
    • 織り地とは、基本的に経(たて)糸と緯(よこ)糸が交差して組織を形成している生地。
    • 編み地とは、糸をループ(輪)状にしてそのループに次の糸を引っ掛け連続してループをつくり面を形成している生地。

基本的に織り地と編み地によって、アパレルメーカー(企業)が分かれることがあります。これは、織り地と編み地によって縫製工場が分かれるためです(最近では、同じ工場で縫製することもあります)。
主な企業:㈱ワールド、㈱オンワードH D、㈱ワコールH D、グンゼ㈱、㈱三陽商会など

「川下(かわしも)」とは

商品(衣料品など)を消費者へ販売する業種をいいます。百貨店や専門店、量販店(ショッピングセンター)などをいいます。
主な企業:㈱しまむら・青山商事㈱、イオン㈱、㈱三越伊勢丹H D、㈱高島屋など

また、自社で「川中」と「川下」までを行うSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel)という業態があります。自社で製品を製造し、店舗を構えて消費者へ直接販売する業種です。
主な企業:ファーストリテイリング(ユニクロ)・ZARA・H&M・GAPなど

ここまでは、アパレル業界を「川上(かわかみ)」「川中(かわなか)」「川下(かわしも)」と川の流れに例えられるように、原材料⇒縫製⇒販売といった流れで3つの業態を簡単に解説しました。ここからは、それぞれの主な業務内容について見てみましょう!

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アパレル業界の流通構造と主な業務内容

それでは「川上(かわかみ)」「川中(かわなか)」「川下(かわしも)」の3つの業態について、それぞれの流通構造と主な業務内容を解説しますね。

「川上(かわかみ)」では

【原糸メーカー】から【染色加工】までの解説になります。

◆【原糸メーカー】繊維の原材料から糸(原糸)をつくる業種。

紡績と化合繊維メーカーの2つに分かれている。

  • 紡績:天然繊維(羊毛・綿・麻・絹など)で糸(原糸)に仕上げる。
  • 化合繊維メーカー:石油・パルプなどの原材料で糸(原糸)に仕上げる。

◆【製糸】加工糸(原糸を加工した糸)をつくる業種。

  • 撚糸(ねんし):糸(原糸)に撚(よ)りを加えて強度や風合いなど多種多様な加工糸に仕上げる。
  • 糸染色:糸(原糸)段階で染色して染糸に仕上げる。多色使いの生地や微妙な色ブレなどを抑える。

◆【機屋(はたや)、ニッター】生機(きばた)をつくる業種。織り地は機屋(はたや)で、編み地はニッターでつくる。
※生機とは、染色前段階での織り地・編み地の状態をいう。

  • 生機:加工糸で織る(編む) ※原糸(生糸)を使用することもある。
  • 先染め:染色された糸で織る(編む)。

◎《生地メーカー》(原糸メーカー系列の企業、繊維・産元商社など)

  • 生地の企画:生地サンプルを作成する。
  • 展示(内見)会 :生産計画から糸(原糸)や加工糸を仕入れる。
  • 織り・編み発注:織り地は機屋へ、編み地はニッターへ発注する。
  • 染色計画 :生機の生産数量から染色・整理加工の計画を行う。
  • 生産:染色加工の指図を行う。
  • 物流管理:仕上がった生地の管理と出荷を行う。

◆【染色加工】生機を染め上げ生地表面を整える業種。

  • 染色:リクエストに応じて染色する。
  • 整理:生地表面を加工することで物性を安定させる。

◎《生地問屋》生地コンバーター

  • 生地の企画:生地メーカーと開発する(※独自開発)。
  • 調達:主に生地メーカーから生地を仕入れる。

このように「川上(かわかみ)」は、糸(原糸)から生地に仕上げるまでを行う業種というところになります。特に《生地メーカー》や《生地問屋》がポイントとなり、次に繋げるポジションです。

私の経験上、生地の風合い(硬い・やわらかい)や色目(濃い・薄い)などは、商品(ブランド)によって微妙に変わることが多々あります。同じ生地でも染色時の加工方法によって、商品アイテムが変わります。《生地メーカー》は【染色加工】を担う工場へその微妙感(イメージ)をしっかりと伝える必要があります。商品にとって風合いや色目は、売れ筋を左右する非常に重要なポイントとなります。

「川中(かわなか)」では

ここでは【縫製】から【配送センター】までの流れ(業務)を解説します。

◆【縫製】生地を裁断し、副資材(裏地・釦など)を合わせて縫製する業種。

  • 検反:生地の特性を分析し、疵(きず)などを調査する。
  • 裁断:自動裁断機(CAM)で生地をカットする。
  • 縫製:製品(サンプル含む)を作成する。 
  • 検品:製品(サンプル含む)の品質を検査する。

◎《アパレルメーカー》企画・生産・営業(※販売店へ)をベースとするポジション。

  • 情報収集:市場動向から海外のトレンド商品を分析。
  • 製品企画:生地の選定からメーキング(CAD)を行う。
  • 展示(内見)会:顧客から受注を取る。
  • 生産計画:生地の発注と縫製準備をする。
  • 物流コントロール:生地と副資材の出荷(輸出)手配を行う。
  • 販売・売上管理:仕上がった製品の数量からコスト管理する。

◆【配送センター】商品の管理(品質・在庫)と出荷を行う業種。

  • 品質:商品の状態を管理する。
  • 在庫:品番別に在庫数量を管理する。
  • ピッキング:製品をサイズ別にピックアップ(出荷)する。
  • 値札(タグ)付け:指定された位置に値札(タグ)を付ける。

このように「川中(かわなか)」では、生地から製品に仕上げるまでを行う業態ということになります。特に《アパレルメーカー》がここではポイントになります。

私の経験上、《アパレルメーカー》がヨーロッパなど海外の最先端ファッションを素早く取り入れ、消費者ニーズにあった商品を考案し製造を担っています(SPA業態を含む)。近年では消費者ニーズの多様化が進み、簡単にインターネットで商品が比較される時代です。商品の特徴や拘わりをどのように出すのか?生産工程もより複雑になり大変な面もありますが、「ヒット商品をつくる!」といったやりがいが魅力です。

一つのヒット商品が、企業の業績を大きく変えることがあります。比較的アパレルメーカーは、毎シーズン新しい商品を開発しているポジションなのでヒット商品を生み出しやすいことが面白いところです。ヒット商品も新しい商品ばかりではなく、今まで開発していた商品をアレンジすることでヒットに繋がることや前向きな発想(色目を極端に明るくするなど)が以外なヒットに繋がることもありますよね。

企業は、販売した商品を通じて顧客に満足して頂くことを使命としています。そのため、ヒット商品をつくり出すことは企業にとって重要なことなのです。

「川下(かわしも)」では

ここでは【小売り】から【消費者】までの流れ(業務)を解説しますね。

◆【小売り】(量販店・百貨店・専門店・無店舗販売など)
店舗:オートメーションによる商品フォローを行う業種。

  • 商品知識:コンセプトを理解しメリット・デメリットを把握する。
  • 接客:商品を通じてお客さまに付加価値を与えること。
  • クレーム処理:苦情から状況を判断し敏速に対応する。
  • 情報管理:個人情報や商品情報などシステム管理を行う。

◆【消費者】商品価値を理解して頂き、購入へ。

このように「川下(かわしも)」は、商品を小売りからお客さまへ販売するまでを行う業態というところになります。特に【小売り】では店舗スタッフの接客がポイントとされています。

私の経験上、【小売り】は、お客さまに商品を販売し収益を上げることが目的ですが、それ以外に商品のコンセプトや良さをどのように伝え信頼して頂くことができるのかが重要です。販売して終わりではなく、お客さまにご納得頂き、喜んで頂くことで次回に繋がる機会が生まれます。お客さまの心に残る接客がポイントのように感じています。

近年、インターネットで商品を購入される方が増えていますが、まだまだ接客を必要とされることが多い業種です。店舗に来て頂くためには、商品知識に加えて「コミュニケーション能力」が必要とされています。企業もここを考慮して採用しているようです。

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まとめ

アパレル業界の構造は、大きく3つの業種に分類され、川の流れに例えて「川上(かわかみ)」「川中(かわなか)」「川下(かわしも)」と呼んで位置付けています。

  • 「川上(かわかみ)」は、繊維の原材料(原糸)から生地が仕上がるまでの業種をいいます。
  • 「川中(かわなか)」は、生地の選定とデザイン(型紙含む)作成、それをベースに縫製を行ない製品に仕上げるまでの業種をいいます(通称:アパレルメーカー)。
  • 「川下(かわしも)」は、商品を消費者へ販売する業種をいいます。

ここでは、アパレル業界に於ける3つの業種から構造分析を理解し、その上で就職・転職に活かして頂ければと考えています。それぞれの業種によって職種が分かれ、仕事の内容も大きく変わります。自分が希望する業種から企業を選択して就職・転職にお役立てください。

私自身、35年前にアパレルメーカーへ就職し現在は同業界の川上(かわかみ)のポジションでお仕事をさせて頂いていますが、3つの業態は業務の内容もそれぞれ違いますが、ファッションに興味のある方や感性を磨きたい方にとってはどの業態でも最適だと思います。

私が就職した当時(1984年頃)は、高度成長期とあって衣料品はこれといった特徴や拘わりがなくても売れた時代でした。川上(かわかみ)や川中(かわなか)の企業では、国内の生産工場を拡大し、海外(特に中国)に工場をつくる計画がこの時期から生まれました。川下(かわしも)の企業(小売り)では、出店が続き多くの企業が業績を伸ばした時代(バブル時代)でした。

就職・転職は、現在ほど難しく考えることはなく、どこの企業も比較的に収入が安定していた記憶があります。しかし、今は大きく変わり、これからは企業に頼ることなく、自分自身で生きて行くための能力を身に付ける必要があります。自分の選んだ企業へ先ずは就職・転職し、働きながら能力を身に付けることが重要です。

企業へ入社後からスタートです。日々の与えられた業務を行うことだけではなく、常に関連した業務内容を考えることが能力をアップさせる最大の近道です。そこに新しい発想が生まれ、改善や改革に繋がり企業の業績を上げることになります。企業にとって必要な人材になることです。企業もまたそのような人材を期待しています。